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プチ耐震補強を伴う住宅改造工事


ほぼreal time 連載 since2006.1.13

プチ耐震補強を伴う住宅改造工事

2005年12月に依頼を受け、協議を重ね設計。契約し、年明けに着工。

「入院期限の1月末までに完成させる」工事の進捗状況を紹介します。

 

1.対象者の状況と住宅改造にいたる経緯

Aさん。女性。64歳。

肺結核から脊椎カリエスを発症。円背(いわゆる猫背)が強い。身長110p。何とか杖なしで歩行可。

半年以上総合病院に入院しており、退院後は本人にとって初めての在宅酸素療法を施行することとなる。

家族・・夫に先立たれ、子はあるが事情により十年以上独居。現在は音信不通。

遺族年金で生活は維持できる。数百万円までは住宅改造に使える貯金がある。

となりに姪のBさん一家が住み、何かと世話をしている。

退院後は訪問看護やホームヘルパーの利用を考えている。

特養老人ホーム入所が妥当とも思えるが、病状のゆえ入所を受け入れる施設がなく、入院継続も費用がかかりすぎる。

本人・姪・病院のケースワーカー・在宅介護支援センターを交えた話し合いで、

「家屋を改造して生活を続けるしかない」との結論にいたった。

まだ介護保険対象とならないため(65歳の誕生日である2006年3月末までは2号被保険者)、

在宅介護支援センターのC職員が担当となり、Cさんから西村に住宅改造計画の依頼があった。

 

12月初旬、協議開始の頃、病院のケースワーカー曰く、

「暖かくなるまでに住宅改造して下さい。生活できるようになるまで退院をせかすことはありません」

→ところが12月9日「医師から12月末に退院するように」との勧告あり。理由不明

→ケースワーカーを通し、「何とか完成まで退院を待って欲しい」と伝える

→「一月末でよい」との回答を得る

 

家屋の老朽化のため、すきま風や雨漏りがひどい。

Aさん「特にトイレの雨漏りがひどく、使うのもイヤだった」よくこの状態で生活していたものである。

病状からみても、この家屋現状のままで生活を継続することは困難。

西村への打診以前から在宅介護支援センター・Cさんは浜松市高齢者福祉課と協議し、

「住宅改造費助成制度」を利用可能であることを確認済み。

できるだけ早く改造方法を決定し、申請、施工の必要があるので、

西村が打診をうけた翌日には現地調査・打ち合わせることとなった。

立ち会いは、姪Bさん・C職員。

 

2.住宅の現況・・・「戦後すぐ建てた」いわゆるバラック住宅。バラックて何?現況調査と、さらに工事を始めてからその実態がわかってきました。

JPEG画像に変換しているので見にくくて恐縮ですが、これが現状平面図。図の上が北、右上が玄関です。

北面の玄関廻りと隣家。棟割り長屋の一部が残った建物であることがわかります。 西側の隣接地は一段高い車場。
南の庭側。写真左の突き出た部分はトイレ。 左写真では右端の、ここが浴室。
玄関から台所方向を見通す。畳はぶかぶかで歩くと家が揺れる。 寝室兼座敷の6畳和室。家財道具が多すぎて、よくこれで生活していたものと感心してしまう(失礼)
北・道路側の6畳大洋室。ベッドはあるが物置として使用。 一坪の浴室。ボイラー、洗濯機も同居。入院前から浴槽には入っていなかったとのこと。

「雨漏りがひどく使っていなかった」というトイレ。

和式両用便器に簡易腰掛け便座がおいてあった。

3.簡易耐震診断・・・静岡県と市町村では無料で耐震診断を行い、条件が揃えば補強工事に対する補助制度もあります。(西村も「静岡県耐震診断補強相談士」登録しています)

しかし、この住宅は詳細な調査をしなくても、一見して耐震強度が著しく低いことが見て取れます。簡易診断として壁量(文字通り、強度上有効な壁がどれだけあるかを示す数値)をチェックしてみると・・「評価1.5以上が安全」とされていますが、この値がなんと0.14にしかなりません。この家屋では、南北方向の壁は有効なのですが、東西方向は、ほとんどゼロに等しい程度にしか壁がないのです。

つまり、単に住宅改造しても、「大きな地震が起きると倒壊してしまう」ことになるのです。

このように、現状を見据えて西村が提案した改造案は・・次号に続きます

4.改造計画

これが、西村が提示・見積し、施工実施にいたった改造図です。

《プチ耐震補強》家屋全体の耐震補強は費用がかかりすぎ、小さな住宅を新築する程度の費用がかかってしまいます。

西村の提案は、中央の6畳間をシェルター(避難所化)し「この部屋にいれば安全」という部屋をつくりあげることです。

東西方向の壁を増やし、四隅を固めます。さらに部屋全体の壁に構造用合板をはって補強。

つまり頑丈な箱をつくるわけです。

ベッドやテレビ、電話機をこの部屋に置き、「生活の中心をこの部屋で過ごしていただく」

もちろん家屋全体の耐震性能も向上するのですが、

他の部屋にいても地震の揺れを感じたらこの部屋に逃げ込んでもらう、という設定です。

 

 

5.施工 (進捗状況・経緯)

《中央の6畳間、床を解体》 畳を撤去し床の下地があらわになると、「バラック建築」の意味がわかってきました。

小学館・日本語新辞典による

  バラック(英barrack)

    「粗末な材料でまにあわせに建てた小屋。また、老朽化した木造の小屋。掘っ立て小屋。」

まさしく、定義にぴったりの建物です。下地を地面から受ける短い柱「束(つか)」がほとんどない。根太はあり合わせの板などが並べてあり、歩くとぶかぶかしていたのは当然でありました。タンスが置いてあった板畳などは下地の骨組みが何もなく、板の強度だけで持ちこたえていました。ゾーッ!

  

上右の写真は天井板を外したところ。吊り木がほとんどなく、よく今まで天井が落ちなかったものです。新しい角材は今回急遽補強した野縁(のぶち:天井仕上げ材の下地、骨組み)です。

近くに住む古老、このお宅の親戚がおっしゃるには「薪がなくて寒くて困ったときに家の材木を外して燃やしていた」そうです。う〜ん、戦後の混乱期、日本人はたくましかったんですねえ。よくぞ今まで無事に暮らせたものです。

《補強しつつ床を組む》

束のないところには束を立て、根太のないところには根太を組み・・・新築の方がよほど楽です。

難しいのは、「高さを合わせる」こと。敷居が水平ではなく波打つようになっているので、「どこに基準をあわせるか」が大きなポイントになります。この判断を誤ると、後で立て込む建具が納まりません。

このため、大工と建具職人が一組になって床を組みました。大工の修行経験ののある建具職人がいて、実に良い仕事をしてくれます。良い職人に恵まれることは、ほんとうに感謝なことです。

元の床組の上にもう一段根太を組み、間には断熱材を挟み込み。その上にさらに耐水合板厚さ12oを重ね貼り。

《床暖房一体型フローリング板を施工》

 

耐水合板の上に貼ります。(このように仕上げ材の下地に貼る板を「捨て貼り」と呼びます(「捨て石」と同様の意味を持ちます。日本語っておもしろいね)

写真:左・・施工前には板の割りつけを設計し、ちょうど接続する位置に電線を立ち上げておきます。床暖房の電線を結線しているところ。差し込むだけの簡単施工です。写真・右・・専用接着剤を塗布し貼り込んでいきます。

梱包してあった箱に「ワックスによるお手入れは必要ありません」との記載が。

わざわざこんな高い暖房設備を西村が勧め実施に至ったのは、施主が肺結核罹患者で在宅酸素療法を受けるからです。また、独居ゆえガスストーブなどのように火災のリスクをなくすためでもあります。

《壁の補強》「4.改造計画」で説明した、この部屋をシェルター化するための壁補強です。

写真:左上・・薄いベニヤ板だった壁には構造用合板を重ね貼り。

写真:右上、左下・・部屋の四隅のもともと壁のなかったところには、新たに構造用合板で壁をつくります。

写真:右下・・新しくつくった壁の頂点は、天井内で梁に接続させます。

《天井・壁の仕上げ》

天井・・「いくらかでも水平耐力を強く」「難燃化」「すきま風をふさぐ」ために天井は格子を組んだ上に化粧石膏ボード張り壁・・工期と費用節約のため、ビニルクロス状の仕上げ材を貼ってある化粧ベニヤ張り。クロス貼りだと内装屋さんの工程が増えるでしょ?

《浴室・トイレ》肺疾患のため浴槽使用は禁止されているので、シャワー浴のための設備を整備。

給湯器を屋外に設置。クリックスイッチ付きシャワー水栓を新設。せっかくの給湯設備がもったいないので台所へも給湯。

洗い場の床は桧製すのこを造りつけ。

本来は浴室内に洗濯機を置くべきではないが、苦肉の策としてシャワーカーテンで区切った。

まったく使われていなかったトイレ

窓・壁・天井・床すべてを作り替え。

ロータンクで手を洗うのは難しいので、手洗器を別に設置。ウオシュレットを勧めたが「使ったことないし使えない」とおっしゃるので、暖房便座+便器洗浄リモコンとした。

《いよいよ完成》1月31日の退院に何とか間に合いました。

玄関から台所・浴室

もとは畳敷きでブカブカしていました。

フローリング板に仕上げ変更。

いくらか水平耐力(対地震)の補強にもなります。

寝室から廊下(縁側)方向をみる

写真左:建具の立て込み前、写真右:建具の立て込み後。

縁側の建具はすき間だらけの木製だった。→アルミサッシに付け替え.

手前の建具はもともと開口部巾9尺に3本引きでした。

間口3尺の壁を耐震補強として新設し、既存の戸のうち2本を再利用。

介護保険非該当なので、当面は古い木製ベッドを利用します。

寝室から北側をみる

写真左:もともとタンス置き場だったところにタンスを戻す。転倒防止の金具を取り付けるが、ベッドを「倒れても危なくないところ」に配置するのが原則。写真中央に見えるのは床暖房の操作スイッチ。

写真右:写真中央の壁は、巾450oだったが900とし耐震補強。古い建具を直して再利用。

6.《退院おめでとうございます》

予定通り1月31日に退院。施工後の使い勝手・機器の説明の用もあり訪問。

「こんなにきれいにしてもらって・・・」と喜ばれるが、きれいにするのは工事したのだから当然で。

私は工事が終わってホッとしているが、これからの人生をひとりでここで住むご本人を思うと、これからがたいへん。

地震や台風があったら、真っ先にこのお宅の無事を確認しなくちゃ。

枕元には在宅酸素療法の機器を設置。

「座布団にすわっても床暖房が暖かいわ(^o^)」

この部屋でこれからの人生のほとんどを過ごすんだ・・・
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